山形地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決 1979年3月28日
原告 阿部機工株式会社
被告 鶴岡税務署長
代理人 佐渡賢一 千葉嘉昭 鈴木喜一 ほか二名
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実<省略>
理由
第一当事者間に争いのない事実
本件確定申告にはじまり、原処分、異議申立及びそれに対する棄却決定、審査請求及びそれに対する原処分一部取消の裁決に至るまでの経緯(請求原因1ないし3の事実)、原告が本件事業年度において多三郎商店から店舗等の一部を賃借して二五二万円の賃料を支払つたこと(被告の主張1の事実)、被告が右金額のうち共同業務管理費は三八万円、その余の正味賃料は一七〇万円が相当であると認めて、その差額四四万円は法人税法第三七条第五項所定の寄付金と認定し、同条第二項の規定によつて四二万四五〇三円につき損害算入を否認して、所得金額を一一三万七三六四円、法人税額を三〇万五二〇〇円と認定したうえ、国税通則法第二四条により更正処分し、同法第六五条により五九〇〇円の過少申告加算税を賦課したこと(被告の主張2、3の事実)(但し、いずれも裁決により一部取消された後のもの)、並びに被告の計算方法によれば右数額のとおりになることは当事者間に争いがない。
第二原処分について
そこで、先ず原処分がなされた経緯及び原処分が採つた方法について検討するに、<証拠略>並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
一 原処分庁である被告は、原告が昭和四二年五月一日に確定申告をした直後の同年六月から翌四三年六月までの約一年間、右申告の所得計算の基礎となつた支払賃料額の是否について調査したが、当時関係五社の管理業務を主たる業務としていた多三郎商店がいずれも右五社の発行済株式総数の二分の一以上を有し、多三郎商店の代表取締役阿部多三郎は訴外阿部広吉(以下「広吉」という。)の父で、広吉は専務取締役であり、右五社のうち、阿部機工の代表取締役阿部喜代女は広吉の母で、広吉は専務取締役であり、阿部金属の代表取締役は広吉であり、阿部かなものの代表取締役阿部チエは広吉の妻で、広吉は取締役であり、阿部建装の代表取締役は広吉であり、阿部物産の代表取締役は広吉の父で、広吉は専務取締役であつて、多三郎商店と関係五社は極めて密接な関係にあつたことから、調査に当つては先ず多三郎商店及び関係五社の代表格である広吉から説明を受けることにした。その結果、多三郎商店と関係五社とは昭和三九年七月一日に賃貸借契約を締結したが、賃借面積及び賃料の決定については、締約の直前に開催された各社の常務取締役によつて構成される常務会の席上で、広吉が原案を黒板に記載して説明し、これに基づいて調整されたうえ決定され、その後も改訂の都度常務会で協議して決定されたが、当初の契約時においても、またその後の改訂時においても、契約書や議事録といつた書類は何も作成されず、常務会に出席した何人かが簡単なメモを作成した程度で、資料算定の基礎となるべき資料が殆んどないことが判明し、被告職員の求めに対しても、何らの資料をも提出することができなかつた。
二 そこで被告は、自ら資料を収集したうえ、賃料鑑定方式の一つである積算式評価法によつて賃料を算出したが、その方法は次のとおりである。
1 復成原価の算出
賃貸借契約の対象物件である店舗、一号倉庫、二号倉庫、三号倉庫、車庫の各建物及び材料置場、並びに右各建物の敷地ごとに、評価時点を昭和三九年七月一日と昭和四一年一月一日に特定して、復成原価を求めた。
(一) 先ず、右各物件の取得年月日、坪数、取得価格(土地は買受価格、建物は建築取得価格)は次表のとおりであつた。
不動産の種類
取得年月日
坪数
取得価格(円)
宅地
店舗・一号倉庫敷地
昭和三五・二・二八
三七五・九
一四四八万三六〇〇
二号倉庫敷地
〃四一・七・二〇
一七〇
五六一万六一六五
三号倉庫敷地
〃四〇・一一・二二
八一・七
二五〇万〇〇〇〇
材料置場
〃四〇・六・二八
五一〇
三五八万四九五一
建物
店舗
(食堂施設 内部施設)
昭和三五・一〇
三〇〇
一八五〇万〇〇〇〇
〃三九・三・三一
一四万二五五八
〃三八・一二
二五万七六五八
一号倉庫
〃四〇・七・三一
一三五
三八七万〇八二〇
二号倉庫
〃四一・一二・一六
一三〇
二三万九三一一
三号倉庫
〃四一・一二・二八
四二
二〇万五三〇九
車庫
〃四一・一一・三〇
四二
一四二万〇七九三
なお、右数値のうち建物の坪数は、後記のとおり、広吉が立会いのうえ鶴岡税務署職員が作成した図面<証拠略>に基づくものである。
(二) 次いで、復成原価を次のとおり算出した。
(1) 店舗及び一号倉庫の敷地は取引事例比較法により算出した。即ち、被告は関係五社全ての申告について調査したものであるが、五社の事業年度の最初が昭和三九年二月であり最後が昭和四二年六月であつたことから、全期間のほぼ中間時点である昭和四一年一月一日を平均的評価時点と特定したうえ、いずれも右期間内である昭和四〇年一月一日から昭和四一年六月二九日の間に取引され、対象土地と同様に鶴岡駅からほぼ南方に向つて延び、市内商店街に至る幹線道路(国道一一二号線)に沿い、最も遠いもので対象土地から直線距離にして約九〇〇メートル、最も近いもので約二四〇メートルの位置に存する四件の売買実例を抽出して、その取引価格を調査して次表(1)のとおり求め、右価格に対し売買に影響を与えたと見られる特殊な取引要因を排除することにより価格修正し、各取引時点と評価時点との時間的経過による変動を全国市街地価格指数を用いて修正し、取引実例地と対象土地との場所的格差を修正した坪当り単価を次表(2)のとおり求め、このようにして修正された四実例の坪単価を単純平均して、坪当り単価を八万六一四〇円と算出し、評価の安全性を考慮して右単価の一〇パーセントを加算して九万四七五四円とし、千円未満を四捨五入して九万五〇〇〇円を求め、これに三七五・九坪を乗じて三五七一万〇五〇〇円を算出し、次いで期間計算の期首である昭和三九年七月一日時点の価格につき、右指数を参考にして期首時点の指数を六七〇、評価時点の指数を七四九と各算定し、両時点における右指数の割合〇・八九四を右価格に乗じて三一九二万五一八七円を求め、端数については右同様に処理して三一九二万五〇〇〇円を算出した。そして、昭和四一年一月一日時点の復成原価につき、店舗の敷地を約二八五坪、一号倉庫の敷地を約九〇坪として、各敷地の面積に応じて按分し、各敷地の復成原価を算出した。(表(1)、(2))
表(1) 売買実例の取引価格
実例番号
売買年月日
(昭和年月日)
対象土地からの距離
(m)
売買面積(坪)
(A)
売買金額(円)
(B)
坪当り単価(円)
B/A=(C)
S1
四〇・五・一二
北方 三七〇
六一、六五
五、〇〇〇、〇〇〇
八一、一〇三
S2
四一・四・二八
北方 二四〇
八五、四九
四、〇一八、〇三〇
四七、〇〇〇
S3
四一・六・二九
南方 三二〇
一六三、七三
九、八四〇、〇〇〇
六〇、〇九九
S4
四〇・一・一
南方 九〇〇
六九、六四
四、六〇〇、〇〇〇
六六、〇五四
表(2) 諸要因修正後の坪当り単価
実例番号
取引要因の修正
時点修正
場所的格差の修正
修正率
(D)
修正後単価(円)
C/D=(E)
修正率
(F)
修正後単価(円)
E×F=(G)
修正率
(H)
修正後単価(円)
G×H=(I)
S1
一、〇
八一、一〇三
一、〇三九
八四、二六六
一、〇〇〇
八四、二六六
S2
〇、九
五二、二二二
〇、九七八
五一、〇七三
一、八二四
九三、一五七
S3
〇、七五
八〇、一三二
〇、九六四
七七、二四七
〇、九二五
七一、四五三
S4
〇、四
一六五、一三五
一、〇七五
一七七、五二〇
〇、五三九
九五、六八三
なお、(D)の数値につき、取引要因として次のものを考え、各要因が取引価格に与える増減率を次のとおりとした。
(イ) 売主から申込みがあつた場合 二〇%減
(ロ) 隣接地を買増しした場合 一〇%増
(ハ) 金融機関が取扱つた場合 五%減
(ニ) 買主が借地権を有していた場合 四〇%減
これを四件の実例についてみると、次のとおりとなる。
実例
取引要因の有無
Dの値
S1
なし
S2
イ+ロ=一〇%減
一-〇・一=〇・九
S3
イ+ハ=二五%減
一-〇・二五=〇・七五
S4
イ+ニ=六〇%減
一-〇・六=〇・四
(F)の数値につき、財団法人日本不動産研究所発行の「全国市街地価格指数」のうち、第四表「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表(商業地の欄)」により、対象土地の評価時点(昭和四一年一月一日)における指数と実例土地の売買時点における指数とを算出したうえ、前者に対する後者の比率を次のとおり求めた。
土地
指数
比率(Fの値)
対象土地
七四九
―
S1
七二一
七四九÷七二一=一・〇三九
S2
七六六
七四九÷七六六=〇・九七八
S3
七七七
七四九÷七七七=〇・九六四
S4
六九七
七四九÷六九七=一・〇七五
(H) の数値につき、仙台国税局発行の「昭和四一年分相続税財産評価基準(山形県分)」により、右評価時点における対象土地及び実例土地の相続税評価額を求め、対象土地の評価額の実例土地の各評価額に対する比率を次のとおり算出した。
土地
評価時点における相続税評価額(千円)
比率(Hの値)
対象土地
六二
―
S1
六二
六二÷六二=一・〇〇〇
S2
三四
六二÷三四=一・八二四
S3
六七
六二÷六七=〇・九二五
S4
一一五
六二÷一一五=〇・五三九
(2) 店舗は、一般建物についてはその設計内容、使用目的建築業者の規模等により価格の差が大きすぎて、取引事例法によることは事実上不可能であることから、再調達価格算定の方法で算出した。即ち、(1)に記載したと同趣旨から平均的評価時点を昭和四一年一月一日に特定したうえ、対象建物が(一)で述べた時期に取得されたことから、先ず昭和三九年七月一日時点の価格に修正するために、本体となる店舗、内部施設、食堂施設の(一)で述べた各取得価格に、建材費につき物価指数、人件費につき賃金指数を基に算出した指数一・三七、一・〇七、一・〇〇を順次乗じてこれを合計し、復成原価二五七六万三二五二円を求め、次に昭和四一年一月一日時点の価格に修正するために、同様に算出した指数一・〇六を右合計額に乗じて二七三〇万九〇四七円を得、千円未満を四捨五入して復成原価二七三〇万九〇〇〇円を算出した。
(3) その他の土地、建物は1で述べた時期に取得したものであるところ、右取得時期はいずれも、被告が調査の対象とした昭和三九年二月から昭和四二年六月までの間に存在し、かつ、平均的評価時点である昭和四一年一月一日の適用期間である昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日までの間に存在することから、取得価格をもつてそのまま復成原価とした。
2 物件別年額賃料の算出
前項によつて求めた復成原価に対し、関係五社の事業年度ごとに、A(後記4で示す表の上欄の年度)、B(同中欄の年度)、C(同下欄の年度)の時期に区分したうえ、昭和三九年七月一日時点の復成原価はAに、同四一年一月時点の復成原価はB、Cに各適用して、土地については六パーセントを基本として抽象的必要経費分の二パーセントを加算した八パーセントを期待利回りとし、建物については土地についての右パーセントを基本としてこれに空室補償、維持管理費等から成る抽象的必要経費分として二パーセントを加算した一〇パーセントを期待利回りとし、これらの期待利回りを乗じて得た額に、店舗は減価償却費、損害保険料、修繕費、公租公課を、その他の建物は減価償却費を各加算して、各物件の年額賃料を次表のとおり算出した。
物件
計算項目
A(円)
B(円)
C(円)
店舗
イ
二、五五四、〇〇〇
二、一六八、〇八〇
二、一六八、〇八〇
ロ
二、五七六、三二五
二、七三〇、九〇〇
二、七三〇、九〇〇
ハ
三八六、四四〇
四一七、八二七
四一七、八二七
ニ
一五三、八九一
三六八、〇一一
三六八、〇一一
ホ
一、二八八、一五〇
一、四四九、八一一
一、三五五、〇五〇
ヘ
二七九、五四〇
三八八、六七〇
三八八、六七〇
合計
七、二三八、三四六
七、五二五、二九九
七、六一八、〇六〇
一号倉庫
イ
六八八、七六〇
ロ
三八七、〇八二
ハ
一〇一、一三五
合計
一、一七六、九七七
二号倉庫
イ
四四九、二九〇
ロ
二三、九三一
ハ
一三、三五三
合計
四八六、五七四
三号倉庫
イ
二〇〇、〇〇〇
二〇〇、〇〇〇
ロ
二〇、五三〇
ハ
一一、四五六
合計
二〇〇、〇〇〇
二三一、九八六
材料置場
イ
二八六、七九六
車庫
ロ
一四二、〇七九
ハ
七九、二八〇
合計
二二一、三五九
なお、イないしヘの記号は次のものを意味する。
イ 敷地の期待利回り
ロ 建物の期待利回り
ハ 建物の減価償却費
ニ 建物の損害保険料
ホ 建物の修繕費
ヘ 土地建物の固定資産税
3 使用割合の算出
鶴岡税務署職員は関係五社の使用面積を確定するため広吉に対して資料の提出を求めたところ、資料となるべき書類が存在しなかつたことから広吉は昭和四二年六月、当時の建物についての各賃借人の賃借部分を略記した現況メモ図を作成して提出したが、該メモ図には賃借面積の記載がなかつたので、同署職員は広吉に現場での立会いを求めたうえ、賃借部分ごとの坪数を求めて図面を作成した。そしてその際、被告職員は昭和三九年二月から昭和四二年六月までの間の賃料をまとめて算出するので、各賃借人の賃借部分及び坪数の変動を示すよう求めたが、変動を詳らかにする資料が存しないので右期間全てにつき現況に従つて計算し適正な賃料を算定して欲しい旨の広吉の申立てにより、やむを得ず変動は存しなかつたものとして、昭和四二年六月の調査時点を基礎に専用面積を算出した。次いで、店舗については、道路からの距離に従つて利用価値が減少することから、専用坪数に使用効率を乗じて得た数値に従つて共用部分を按分配分し、店舗以外の物件については単純に専用坪数の構成比により、各賃借人の使用割合を次表のとおり算出した。
阿部機工
%
阿部金属
%
阿部かなもの
%
阿部建装
%
阿部物産
%
その他
%
敷地
店舗
一九・二
二一・一
二〇・〇
一七・五
六・八
一五・四
一号倉庫
二二・二
四一・五
二五・九
一〇・四
二号倉庫
一〇〇・〇
材料置場
一〇〇・〇
三号倉庫及び車庫
二五・〇
二五・〇
二五・〇
二五・〇
二五・〇
建物
店舗
一九・二
二一・一
二〇・〇
一七・五
六・八
一五・四
一号倉庫
二二・二
四一・五
二五・九
一〇・四
二号倉庫
一〇〇・〇
三号倉庫
二五・〇
二五・〇
二五・〇
二五・〇
車庫
二〇・〇
二〇・〇
二〇・〇
二〇・〇
二〇・〇
4 賃借人別賃料の算出
第2項で求めた物件別年額賃料を関係五社の事業年度に対応させたうえ、前項で求めた使用割合を乗じて五社の事業年度ごとの賃料を次のとおり算出した。なおその際、多三郎商店が自己所有不動産をもつて各社のために物上保証した見返りとして差し入れた保証金の金利分を控除し、(但し、保証金金利を控除した点は後に裁決により訂正された。)また、業務管理費については、すでに前記のとおり抽象的必要経費として二パーセント上積みしているとの見解の下に、別途考慮はしなかつた。
事業年度
(昭和年月~昭和年月)
上記事業年度の正常賃料(円)
事業年度
(昭和年月~昭和年月)
上記事業年度の正常賃料(円)
事業年度
(昭和年月~昭和年月)
上記事業年度の正常賃料(円)
阿部機工
39・3~40・2
一、四一〇、〇〇〇
40・3~41・2
一、七六〇、〇〇〇
41・3~42・2
一、六五〇、〇〇〇
阿部金属
39・2~40・1
一、四〇〇、〇〇〇
40・2~41・1
一、六二〇、〇〇〇
41・2~42・1
一、七七〇、〇〇〇
阿部かなもの
39・4~40・3
一、三三〇、〇〇〇
40・4~41・3
一、五六〇、〇〇〇
41・4~42・3
一、五九〇、〇〇〇
阿部建装
39・7~40・5
一、二七〇、〇〇〇
40・6~41・5
一、四四五、〇〇〇
41・6~42・5
一、四八〇、〇〇〇
阿部物産
39・7~40・6
四九〇、〇〇〇
40・7~41・6
八一九、〇〇〇
41・7~42・6
一、三五〇、〇〇〇
三 右の算出結果に基づいて、被告は原処分を行なつたのである。
以上のとおり認められ、<証拠略>中、右認定に反する部分は措信できない。また、前掲乙第二号証の二、三の記載中、店舗の敷地期待利回り額二一六万八〇八〇円とあるのは二一六万八〇八二円の一号倉庫の減価償却費一〇万一一三五円とあるのは一〇万一〇二八円の前掲乙第二号証の二記載中、阿部かなものの事業年度昭和四〇年三月から昭和四一年二月とあるのは、昭和四〇年四月から昭和四一年三月までの、前掲乙第二号証の一記載中、阿部建装の事業年度昭和三九年六月から昭和四〇年五月とあるのは昭和三九年七月から昭和四〇年五月までの、前掲乙第二号証の三の記載中店舗の評価額二七一〇万一〇二五円とあるのは二七三〇万九〇〇〇円の、金利の算定額二七一万〇一〇二円とあるのは二七三万〇九〇〇円の、それぞれ誤記と認められるが、これらの誤記は以上の認定を左右するものではなく、他に以上の認定を左右する証拠はない。
第三裁決について
次に、裁決が採つた方法について検討するに、<証拠略>並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
一 原告は原処分に対し異議申立をし、これに対する棄却決定を経て、昭和四三年一一月二五日仙台国税局長に対して審査請求をしたところ、仙台国税局の協議官は、その直後の昭和四三年一二月上旬から昭和四五年当初までの約一年間、殆んど広吉から説明を受けて調査をしたが、広吉は、右調査も終局に近づいた昭和四四年一一月一七日、協議官に対し、原処分は使用坪数が相違しているので訂正して欲しい旨、また原処分は認めていないが支払賃料の中には業務管理費が含まれているのでそれを認めて欲しい旨、更に正常賃料の計算方法については、右業務管理費の点及び右使用坪数の点を除き原処分庁に異議はない旨陳述した。
二 そこで、協議官は右不服のある二点を中心に次のとおりの方法で賃料を算出した。
1 復成原価及び物件別年額賃料の算出
協議官は、原処分庁が算出した復成原価及び物件別年額賃料額について検討した結果、若干高額に失するきらいはあつたが、原処分庁の算出した数額の方が原告に有利であるところから、該数額をもつてそのまま認定することとし、但し二号倉庫敷地については、原処分庁が一七〇坪として算出したのに対して、二号倉庫の総坪数である四〇坪分であると認定し、後つてその復成原価を取得価額に一七〇分の四〇を乗じた一三二万一四五〇円に減額して認定し、また、店舗の年額賃料につき、第二の二2に示す表のうち、A欄の項目ハに三八六、四四〇円とあるのを三九四、一七八円と計算の過誤を訂正し、項目ニ、ホの実額を一部訂正して認定した。そして、原処分庁の調査時はもちろん、仙台国税局の協議官が調査に着手した昭和四三年一二月三日に至つても使用坪数を明らかにする資料は存在しなかつたところ、昭和四三年一二月一二日になつてやつと広吉が、建物についての各賃借人の賃借部分と坪数を表示した図面及び各賃借人の正味賃料と業務管理費の算出根基を表示した地代家賃算出表(<証拠略>)を作成して提出したが、右図面及び算出表は昭和三九年七月一日から昭和三九年一二月三一日まで、昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日まで及び昭和四二年一月一日以降の三つの期間に区分して記載されていたことから、協議官は原処分庁が算出した復成原価及び物件別年額賃料のうち、昭和三九年七月一日を評価時点としたものは昭和三九年七月一日から昭和三九年一二月三一日までの期間分に、昭和四一年一月一日を評価時点としたものは昭和四〇年一月一日から昭和四一年一二月三一日までの期間分及び昭和四二年一月一日以降の期間分に各適用することにした。このようにして得た各物件の復成原価及び物件別年額賃料額は別表(一)記載のとおりである。
2 賃借人別使用割合の算出
広吉が協議官に提出した図面は、店舗については前項記載の三つの期間に区分し、その他の建物は期間を区分しないで表示されていたものであるところ、広吉は、原処分庁に提出済の現況メモ図(<証拠略>)は不正確であつて右図面の方が正確である旨、また使用部分及び坪数の変動を証明する書類は何も存せず、しかも変動は僅少であつて各賃借人の使用坪数に大きな相違は存しない旨述べたことから、協議官はやむを得ず右図面の記載に従つて使用坪数を算定したが、その際原処分庁が賃借物件として認定した建物については、ほぼ右図面どおりに(但し、後記木造部分の点を除く)坪数を算出し、右図面に記載されている旧一号倉庫については、多三郎商店の会計帳簿、決算書類に記載されていなかつたため、算定の対象とせず、但し一号倉庫建築前は仮倉庫があり、これを共同使用していたものと認め、一号倉庫が建築された昭和四〇年七月三一日以前も同年度中は、同一倉庫が存在したものとして、また昭和三九年度中は、敷地全体を同一割合で使用していたものとして算出し、また右図面中、店舗に接続して木造部分の記載があるが、この部分は、広吉が原処分庁に提出した現況メモには一号倉庫の一部として記載されており、原処分もこれに従つて使用坪数を算出したものであるところ、協議官は店舗、一号倉庫いずれの部分としても算定の対象とはしなかつた。
このようにして算定した各賃借人の賃借専用部分及び専用坪数は別表(八)ないし(一一)のとおりである。次いで専用坪数を基本として店舗等の各賃借人の使用割合を次のとおり算出し、原処分を訂正した。
(1) 店舗については、別表(二)ないし(四)のとおり、先ず別表(八)ないし(一〇)記載の数値から集計した奥行間数及び階層ごとの専用坪数を出し(別表(二)ないし(四)中、各社の専用坪数調欄)これに商業地区の使用効率を勘案した奥行逓減の指数を乗じた坪数(同表中、小計欄)を求め、次に共用部分につき、効率坪数を基礎にして得た専用割合に共同部分合計面積を乗じて共同坪数(同表中、共用坪数欄)を求め、効率坪数と共用坪数との合計(同表中、使用面積計欄)を基礎にして使用割合を求めた。
(2) 一号倉庫、二号倉庫、三号倉庫については単純に専用坪数の構成比により、別表(五)のとおり使用割合を求めた。
(3) 車庫については均等按分により使用割合を求めた。
3 賃借人別年額賃料の算出
第1項で求めた物件別年額賃料に、前項で求めた使用割合を乗じて、前記の三つの期間ごとの賃借人別年額賃料を別表(六)のとおり算出し、原処分を訂正した。なお、一号倉庫は前記のとおり昭和四〇年七月三一日に建築取得したが、その以前から同一場所に存在した仮倉庫等を使用していたので、専用坪数は一号倉庫のそれと同一としたうえ、昭和四〇年一月一日の時点から一号倉庫を賃借しているものとして算出し、二号倉庫、三号倉庫及び車庫は前記のとおりそれぞれ昭和四一年一二月一六日、同年一二月二八日及び同年一一月三〇日に各建築取得されたことから、昭和四二年一月一日の時点から賃借しているものとして算出し、但し三号倉庫の敷地は同倉庫建築以前から使用していたので、地代として計算した賃料に同倉庫と同一の使用割合を乗じて昭和四〇年一月一日の時点から算出した。
4 事業年度別賃料の算出
原処分庁において賃料算出の際控除した保証金金利は賃貸借に無関係であることから控除計算しないこととしたうえ、前項で求めた額を基礎として、原告の事業年度に対応させ、一万円未満を切り上げて、正味賃料を別表(七)のとおり算出して原処分を訂正した。
5 業務管理費の算出
広吉は、関係五社が多三郎商店に対し、広告宣伝費、水道光熱費、倉庫管理費、総務事務費等から成る業務管理費を賃料の一部として支払つていると主張し、同人が前記地代家賃算出表を提出して申立てた際の業務管理費の一か月当りの数額は次表のとおりであつたところ、協議官は、該数額を大むね妥当と判断して右申立てのとおり認めることとし、関係五社の事業年度に対応させたうえ、被告が「被告の主張2」で主張するとおりの金額を算出して原処分を訂正した。
(単位は万円)
昭39.7.1~昭39.12.31
昭40.1.1~昭41.12.31
昭42.1.1~
阿部機工
2
3
4
阿部金属
2
3
4
阿部かなもの
2
3
3.5
阿部建装
2.5
4
4.5
阿部物産
3
4.5
5
三 右のような計算過程を経て原処分の数額が訂正され、裁決がなされた。
以上のとおり認められ、<証拠略>中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。
第四原処分と裁決の算出方法及び算出結果の相当性並びに算出数額の妥当性について
以下、被告のなした原処分及び後にこれを一部取消した裁決の双方について、その相当性、妥当性を検討する。
一 積算式評価法を用いたことについて
被告は正味賃料の算出方法として積算式評価法を用い、裁決においてもそのまま是認されたが、右の方法は、鑑定嘱託の結果に照らしても、賃料算定の一方法として一般的に是認されているものと認められ、相当な方法である。
二 復成原価の算出について
1 被告は評価時点を昭和四一年一月一日に特定したのであるが、これは調査した関係五社の事業年度の始期の最初(昭和三九年二月)と終期の最後(同四二年六月)とのほぼ中間時点をとつたものであり、かつ対象とした期間の期首(昭和三九年七月)の年度については価格の上昇率を考慮した修正をしたものであつて、この方法は何ら不当とはいえない(ちなみに鑑定嘱託の結果によると、同鑑定は評価時点を昭和四〇年六月三〇日及び同四二年六月三〇日とするが、その適用期間をみると、前者につき昭和三九年七月一日から同四一年六月三〇日とし、後者につき昭和四一年七月一日から同四三年六月三〇日とするもので、前者は被告の用いた昭和三九年七月一日の時点と一致し、後者は同四一年一月一日の時点と六か月相違するにすぎない)。次に復成原価算出の方法について考えるに、(一)「店舗及び一号倉庫敷地」につき取引事例比較法により抽出した四件の売買実例から取引価額を認定した方法は相当であり、右取引価額を修正した方法及び修正の際に用いた数値は<証拠略>に照らして適正なものであるといえ、かつその結果として得られた価額も後記のとおりおおむね妥当なものである。(二)「店舗」につき再調達価格算定の方法を用いたことは、相当であり(ちなみに鑑定嘱託の結果においても同様の方法が用いられている)、取得価額を修正するにあたり用いた指数も<証拠略>に照らして相当である。更に(三)「その他の土地、建物」につき、取得価格をもつて復成原価としたことは、これらの取得時期が昭和四〇年六月ないし昭和四一年一二月であることを考慮するならば、その方法において相当であり、現実の取得額は第二の二1(一)の表記載のとおりである。なお、二号倉庫、三号倉庫、車庫の右認定額は、後記八で示す鑑定額に対比し、著しく低額であるが、<証拠略>によると、該各物件の鑑定額は設計書をも参考資料として再調達原価を求めたうえ復成原価を算出したものであるところ、設計書に見積額として記載された数額は現実の建築取得価額よりもはるかに高額であつて、そのために鑑定額が算出額に比して高額になつたものと認められる。しかしながら復成原価算出にあたつては、予想される見積額でなく、現実の取得価格を基礎にして算出すべきであるから、右認定額の相当性の判断を左右するものではない。そして、以上の方法に基づく第二の二1(二)記載の算出過程に過誤は存しない。
1 右原処分庁の認定額に対し二号倉庫敷地の復成原価について建物である二号倉庫の総坪数相当分に減額したこと、さらに、広吉の作成した図面及び算出表に記載した三つの時期に区分して復成原価を算出した方法には特段に不合理な個所はなく、右方法に基づいてなされた別表(一)記載の算出額には計算上の過誤はない。なお、店舗及び一号倉庫の面積につき、別表(一)には三七五坪と表示されているが、前記のとおり、広吉が仙台国税局の調査の際協議団に提出した図面<証拠略>には三七五・九坪と記載しているので、該坪数をもつて当該敷地の坪数と認めるのが相当で、現に別表(一)の価格は三七五・九坪として計算されており、従つて別表(一)の三七五坪は三七五・九坪の誤記である(原告は別表(一二)において三六二・〇九坪である旨主張する。)が、右は表示の過誤であつて、価格に影響はない。また三号倉庫敷地につき、別表(一)には一三二坪と表示されているが、<証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、原処分は阿部物産所有にかかる鶴岡市宝町八番四二号所在宅地一一七・七五平方メートル(三五・六二坪)と同所八番四三号所在宅地一五二・三三平方メートル(四六・〇八坪)の合計八一・七坪をもつて三号倉庫の敷地と認定したものであり、右二筆の外、原告が別表(一二)において主張する同所八番一四号所定在雑種地一九・九八坪と同所八番四一号所在雑種地二四坪については多三郎商店及び関係五社でない訴外人の所有であることから、敷地とは認定せず、前二者の取得価額をもつて復成原価とし、裁決においてもこれを踏襲したものであると認められ、(右の判断は相当として是認できる。)、従つて別表(一)の一三二坪は八一・七坪の誤記であるが、右は表示の過誤にすぎず、価格に影響はない。
三 物件別年額賃料の算出について
被告は、土地については八パーセント、建物については一〇パーセントの各期待利回り率を用い、裁決においてもこれが踏襲されているが、鑑定嘱託の結果によれば、同鑑定においても同一の率が用いられていることに照してみても、何ら不合理とは認められず、第二の二2記載の算定過程に過誤は存しない。また裁決において、店舗の年額賃料の算出につき一部の項目の額を訂正したうえ、別紙(一)記載のとおり物件別年額賃料を算出した過程及び算出結果に過誤は存しない。
四 使用割合の算出について
1 被告の算出方法及び結果は、原処分時の事情からすると、やむを得ないものであつたといえるが、後に広吉の陳述に基づき、裁決によつて一部訂正されたので、裁決について検討する。
2(一) 審査庁の算出方法のうち、旧一号倉庫の存在を認めなかつた点については、別表(一二)によつて原告の主張するとおりの該物件が存在したとの的確な資料がないので、やむを得ない措置であり、但し裁決においては、前記のとおり従前から一号倉庫と同一場所に仮倉庫が存したものとして、地代につき店舗と同一視して算出したものであるから、あながち不合理とはいえない。また、木造部分を算定の対象としなかつたことについて見ると、広吉は、前記のとおり原処分庁に提出した現況メモの記載(該部分は一号倉庫の一部として記載されている。)は誤まりであつて審査庁に提出した図面の記載(該部分は店舗の一部として記載されている。)が正確である旨陳述したが、<証拠略>によれば店舗の登記簿には附属建物としての木造部分の表示がなく、かつ右登記簿に表示された一階一六五・七五坪、二階一七二・四九坪の数値と、当事者間に争いのない現況店舗の鉄筋コンクリート造部分の面積である一階及び二階とも一七五坪の数値とを対比すれば、木造部分が店舗に含まれないことは明らかであり、さりとてこれが一号倉庫に含まれるとすることは、該倉庫が前記のとおり昭和四〇年七月三一日に建築されたにもかかわらず、広吉が審査庁に提出した図面には、すでに同三九年七月一日から存在した旨記載されていること及び<証拠略>によると一号倉庫の面積は一階が二六一・八八平方メートル(七九・二二坪)、二階が一八四・八九平方メートル(五五・九三坪)と記載されているのに、別表(二)に記載された該倉庫の面積は、専用部分だけでも一階が八四坪、二階が五九坪にも達すること(この点は当事者間に争いがない。)等に照らすと木造部分が一号倉庫に含まれるとすることにも疑問があり、結局これがどの建物の一部に属するか及びその価格を認定するに足りる的確な証拠はない。しかしながら木造部分は面積が僅少であり、かつ木造であることから復成原価、賃料ともに低額であると推認されるので、該部分を評価の対象にしなかつたことにより算出価額に与える影響は極く僅かであると考えられる。
(二) 右を除くその余の物件の専用坪数につき、広吉の作成した図面どおりに専用坪数を認定したこと、店舗につき、右専用坪数を基礎にして奥行逓減の指数を乗じ、共用坪数及び使用割合を算出したこと、及び一号倉庫、二号倉庫についてはその使用割合を単純に専用坪数に応じて算出したことは、その算出の方法を含めて、いずれも相当と認められる。そして、以上の算出方法に基づく算出結果に過誤は存しない。
(三) しかしながら、三号倉庫及び車庫については、<証拠略>並びに弁論の全趣旨によると、三号倉庫と車庫は接続した建物であつて、別表(一一)の右側上段記載の「三号倉庫」の図面中には、車庫の部分も含まれていること、広吉が提出したメモに基づいて鶴岡税務署職員が作成した資料には、車庫は関係五社が均等に使用している旨記載されていたところ、広吉は協議官に提出した図面においてこれを訂正し、三号倉庫と車庫とを合わせ別表(一一)右側上段記載のとおり使用割合を主張したものであることが認められ、このことは右資料及び図面を対照すれば容易に判別しえたはずである。審査庁としては右二つの建物を一括したうえ三号倉庫及び車庫の使用割合を算出すべきであつて、車庫について均等按分したのは相当でないというべきであり、そうすると別表(五)のうち、三号倉庫の欄は、「三号倉庫及び車庫」と表示すべきであり、その結果、賃借人別年額資料を記載した別表(六)のうち、三号倉庫及び車庫の該当欄を訂正すべきことは後記のとおりである。
五 賃借人別賃料の算出について
1 被告の算出方法及び算出結果は、後に裁決により一部訂正されたので、裁決について検討する。
2(一) 裁決において、三で認定した物件別年額賃料に四で認定した使用割合を乗じて賃借人別の年額賃料を算出したが、この方法自体には何ら不当な点はない。
(二) しかしながら、前記のとおり三号倉庫及び車庫の使用割合を訂正すべきであるとした結果、賃借人別の年額賃料を示した別表(六)中、昭和四二年一月一日以降の期間における「三号倉庫」「車庫」欄を削除したうえ、これを次のとおりとすべきである。
区分
合計
阿部機工
阿部金属
阿部かなもの
阿部建装
阿部物産
三号倉庫及び車庫
構成比
100.0
38.9
30.1
―
23.5
7.5
金額
453,345
176,351
136,457
―
106,536
34,001
(三) なお別表(六)の算出結果のうち、昭和四〇年一月一日から同四一年一二月三一日までの期間における阿部金属の賃料のうちの店舗分一五三万三一九二円とあるのは一五三万三一八七円の過誤であり、同期間における林料置場の合計額二八万六八〇〇円とあるのは二八万六七九六円の誤記であり、以上の点を除く、その余の点につき計算上の過誤は存しない。
3 そこで、右不相当な部分及び過誤の存する部分を訂正すると、別表(六)の各「計」の欄の金額は、次表のとおりとなる。
阿部機工
阿部金属
阿部かなもの
阿部建装
阿部物産
昭39.7.1~昭39.12.31
1,252,233
803,456
昭40.1.1~昭41.12.31
1,696,723
1,682,837
1,404,156
1,841,429
1,262,455
昭42.1.1以降
1,713,158
1,863,020
1,385,247
2,012,906
1,382,362
六 事業年度別賃料の算出
裁決において保証金の金利分を控除したことは相当であり、原告の事業年度ごとの正味賃料額につき、審査庁の認定した方法によつた場合の算出結果(別表(七))に過誤は存しない。しかしながら、三号倉庫及び車庫につき、前段2項に記載したとおり、相当と認められない点が存し、また計算上の過誤が存するのであるから、前段3項の表に示した数額に従つて計算した場合、関係五社の事業年度別正味賃料は次表のとおりとなる。そこで、右表に示した額と裁決によつて算出した額とを比較検討するに、後者の方が高額なものはその差額が一万円ないし二万円であつて、しかも納税会社に有利であるから問題なく、後者の方が低額なものは阿部建装の昭和四一年六月一日から昭和四二年五月三一日までの期間分だけであるが、この差額も実質上二八七七円と僅少であつて、しかも後に八の表(1)ないし(3)で示す数額を対照して判るとおり、正常賃料の厳密な数額を求めることは著しく困難であり、著しく経験則に反する場合でない限り、行政庁たる仙台国税局長の裁量に委ねられていると解すべきであるから、右のとおりの僅少差が存することをもつて違法というべきでなく、右裁決額は相当というべきである。
会社名
事業年度別賃料
阿部機工
―
―
昭41.3.1~昭42.2.28
1,699,461(170万)
阿部金属
―
―
昭41.2.1~昭42.1.31
1,697,853(170万)
阿部かなもの
―
昭40.4.1~昭41.3.31
1,404,156(141万)
昭41.4.1~昭42.3.31
1,399,429(142万)
阿部建装
昭39.7.1~昭40.5.31
1,393,379(140万)
昭40.6.1~昭41.5.31
1,841,429(185万)
昭41.6.1~昭42.5.31
1,912,877(191万)
阿部物産
昭39.7.1~昭40.6.30
1,032,956(104万)
昭40.7.1~昭41.6.30
1,262,458(127万)
昭41.7.1~昭42.6.30
1,322,409(134万)
( )は裁決による算出額を示す。
七 業務管理費の算出について
裁決において審査庁は、広吉の主張を全部容れて業務管理費を認めたのであつて、その算出方法はまことに相当と認められ、その算出結果に過誤は存しない。原告は本訴において右と異る額を主張し、その裏づけとして、<証拠略>を提出し、証人阿部広吉(第一回)もこれに添う証言をしているが、右は<証拠略>に照らし採用できず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
八 算出数額の妥当性について
1 以上のとおり、正味賃料及び業務管理費の算出過程及び算出結果の相当性について検討して来たが、最後に原処分庁たる被告が算出し、審査庁が一部訂正した復成原価、物件別年額賃料及び事業年度別賃料の各算出額の妥当性につき、これらの鑑定嘱託の結果(積算法、賃貸事例比較法、収益分析法を総合して求めたもので、以下、「鑑定額」という。)とを対比して検討する。なお、右表は、食堂設置を店舗に含め、三号倉庫敷地については鑑定額を九一・七坪に換算したうえ、千円未満を四捨五入して計算したもので、単位は万円であり、表(3)の鑑定額については正味賃料のみ、算出額、支払賃料額については正味賃料と業務管理費とを合算したものである。
2 まず復成原価について算出額と鑑定額とを対比すると次表(1)のとおりであつて、二号倉庫、三号倉庫、車庫については算出額が鑑定額に比して著しく低額となつていることが明らかであるが、鑑定額の算定方法に疑問があることは前記二の1で示したとおりであり、このことは一号倉庫の鑑定額についてもあてはまる。また材料置場についても、算出額が鑑定額に比して低額であるが、該土地の取得時期は昭和四〇年六月二八日であるから、それから約半月後を基準時とする復成原価につき、取得価格をもつてそのまま復成原価とした算出方法が相当であることは前示のとおりであり、そうすると鑑定額との対比から、算出額が低きに失するとまではいえない。右以外の建物及び敷地については、算出額と鑑定額とは、ほぼ合致しており、ことに鑑定額中の妥当性が疑問とされる右建物についての額を算出額に置き換えてみると、算出額(A)の合計と鑑定額(B)の合計とは、ほとんど一致するのであつて、この点からも算出額は妥当なものであるといえる。
表(1) 復成原価
物件
方法
算出額
鑑定額
算出額(A)
鑑定額(B)
B/A
評価時点
昭39.7.1
昭40.6.30
昭41.1.1
昭42.6.30
建物
店舗
2,576.3万円
2,121.0万円
2,730.9万円
2,064.7万円
0.76
一号倉庫
473.2
387.1
418.2
1.08
二号倉庫
23.9
144.1
6.03
三号倉庫
20.5
99.4
48.5
車庫
142.1
240.7
1.69
土地
店舗・一号敷地
3,192.5
3,445.7
3,571.1
3,911.4
1.09
二号倉庫敷地
522.9
561.6
602.3
1.07
三号倉庫敷地
208.5
250.0
240.3
0.96
材料置場
538.4
358.5
578.8
1.61
計
8,045.7
8,299.9
1.03
但し、食堂施設は店舗に含め、三号倉庫敷地については、鑑定額を817坪に換算したものである。
3 次に、物件別年給賃料については次表(2)のとおりであつて、店舗以外の年額賃料の算出額は鑑定額より低額となつていることがこれにより明らかであるが、この点も前項で述べたと同様のことが当てはまるのであつて、表(1)と表(2)の各B/Aの欄とを参照すると、かえつて算出額の妥当性を肯定することができる。
表(2) 物件別年額賃料
方法
算出額
鑑定額
算出額
算出額(A)
鑑定額(B)
B/A
評価時点
昭39.7.1
昭40.6.30
昭41.1.1
昭41.1.1
昭42.6.30
適用期間
昭39.7.1
~昭39.12.31
昭39.7.1
~昭41.6.30
昭40.1.1
~昭41.12.31
昭42.1.1~
昭41.7.1
~昭43.6.30
店舗
723.8万円
623.9万円
759.0万円
740.8万円
654.4万円
0.88
一号倉庫
―
135.9
117.7
117.7
137.2
1.17
二号倉庫
―
―
―
14.3
55.1
3.85
三号倉庫
―
―
―
23.2
115.0
25.4
車庫
―
―
―
22.2
材料置場
―
48.5
28.7
28.7
52.1
1.82
計
946.8
1,013.8
1.07
4 さらに取消訴訟の対象となつている事業年度別賃料について算出額(A)と鑑定額(D)、適正な業務管理費を加えた算出額(D)と支払額(E)を対比してみると、次表(3)のとおりである。
表(3) 事業年度別賃料
会社名
事業年度
算出額
正味賃料の鑑定額(D)
支払賃料額(E)
D/A
E/C
正味賃料(A)
管理費(B)
賃料合計(C)
阿部機工
昭41.3.1~昭42.2.28
170万円
38万円
208万円
177.5万円
252万円
1.04
1.21
阿部金属
昭41.2.1~昭42.1.31
170
37
207
204.1
276
1.20
1.33
阿部かなもの
昭40.4.1~昭41.3.31
141
36
177
120.5
195
0.85
1.10
昭41.4.1~昭42.3.31
142
37.5
179.5
123.7
204
0.87
1.14
昭39.7.1~昭40.5.31
140
35
175
122.8
206
0.88
1.18
阿部建装
昭40.6.1~昭41.5.31
185
48
233
166.7
253
0.90
1.09
昭41.6.1~昭42.5.31
191
50.5
241.5
221.9
297
1.16
1.23
昭39.7.1~昭40.6.30
104
45
149
192.3
306
1.85
2.05
阿部物産
昭40.7.1~昭41.6.30
127
54
181
195.2
324
1.54
1.79
昭41.7.1~昭42.6.30
134
57
191
214.1
308
1.60
1.61
計
1,504
438
1,942
1,738.8
2,621
1.16
1.35
第五原告の違法性の主張について
一 正常賃料と支払賃料について
原告は、現代の我国においては正常賃料なるものはあり得ず、現実に支払つた賃料は常に合理的かつ相当である旨及び仮に正常賃料を算定し得たとしても、支払賃料は相当な額であつて、正常賃料の範囲内に存する旨主張するが、合理的に算定した正常賃料が存在することは明らかであり、その厳密な価格の算定は困難であるにしても不可能ではないものというべきである。けだし、申告納税方式による国税の納税義務者の申告内容は必ずしも適正、妥当に計算されているとは限らないのであるから、これを放置することは租税負担の公平を失することになるので、国税通則法は、国に申告内容の検討を要求し、同法第二四条において「税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。」と規定していることからも明らかである。これを賃料についていえば、調査した結果えられた資料額と申告書記載の支払賃料額とが相違するときは、租税負担の公平を期するため、その差額が著しいか否かを問わず、裁量権の範囲を超えない限度で更正することができるものと解すべく、本件の場合、調査の結果算出された合理的賃料額は第四の八第2項の表(3)の(C)の欄に示したとおりであり、支払賃料額が右算出額より高額であることは同表に示すとおりであつて、両者の比率は同表のE/Cの欄に示すとおりであるから、両者の間に相違が存するものとして更正したことは違法ではない。
二 寄付金について
原告は、正常賃料額(算出額)と支払賃料額との差額を寄付金と認定したのは、法人税法第三七条第五項の解釈を誤つたものであつて、違法である旨主張するので考える。
法人税法は、各事業年度の所得を法人税の課税対象とし(同法第五条)、右所得の金額は「当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする。」と規定したうえ(同法第二二条第一項)、右益金に算入すべき金額は「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は労務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」とする旨定めている(同条第二項)。そして、ここにいう益金とは、資本の払込み以外において資産の増加となるべき一切の事実に基づく経済的利益をいうものと解される。ところで、資産の無償譲渡または労務の無償提供は現実に対価を取得させるものではないのに、法がこれに係る「収益」ということを定め、それが益金に該当するとしているのは、資産の譲渡、労務の提供があつた場合、その対価がいかほどであろうとも、その資産等は時価としての経済的機能を有していたのであるから、これが譲渡等によつて当該法人の手許を離れるときにおいて、資産等の経済的価値が顕在化して担税力を示すものとして、その顕在化した経済的価値を「収益」として把握すべきことを規定した趣旨と解される。これを本件についてみると、賃料として支払つた金銭が資産に該当することはいうまでもなく、正常賃料を超えて支払うべき合理的事情がないにかかわらず賃料を支払つた場合には、支払賃料のうち正常賃料を超える部分は、賃料としての対価性を喪失し、無償の資産譲渡ということになる。次に、法人税法第三七条第五項は、寄付金の額は、寄付金、きよ出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、法人が金額その他の資産の贈与または無償の供与をした場合における当該金銭の額によるものとし、同項かつこ内の広告宣伝及び見本品の費用その他これに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきもの(以下、除外費用という。)を除くと定めている。ところで、寄付金の中には、法人の事業に関連を有しその収益を生み出すのに必要な費用といえるものと、そうではなくて単なる利益処分の性質を有するにすぎないものがあるところ、当該法人が現実に支出した寄付金のうち、どれだけが費用の性質をもち、どれだけが利益処分の性質をもつかを客観的に判定することは極めて困難であることから、同法第三七条第二項は、行政的便宜及び公平の見地から、続一的な損金算入限度額を設け、寄付金のうち、右限度内の金額は費用としての損金算入を認め、それを超える部分の金額は損金に算入しないものと定めている。従つて、資産の無償譲渡に当ることが肯定されれば、それが除外費用に該当しない限り、仮にそれが事項と関連を有し法人の収益を生み出すために必要な費用といえる場合であつても、寄付金性を失うことはないというべきである。また、無償の譲渡である以上、公平の観点からして、正常賃料と支払賃料との差額が著しいか否かを問わず、その寄付金性を肯定すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみると、正常賃料の額は前段認定のとおりであり、支払賃料のうち右正常賃料を超える部分は無償による資産の譲渡であるものというべく、かつこれが除外費用に該当しないことは明らかであるから、右超過部分は賃料の名義をもつてした寄付金であると認めるのが相当であり、これと同趣旨の見解の下になされた更正処分は違法ではない。
第六本件処分の適法性について
原処分は裁決によつて一部取消され、取消されなかつた部分に関する原処分、即ち本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分のうち、更正処分が、以上のとおり過大に支払つた賃料の部分を寄付金と認めたことは相当であり、かつこれを基礎にして損金算入限度額を求め、所得金額、法人税額を算出した算出結果が被告の主張2のとおりであることは当事者間に争いがないから、本件更正処分は適法であり、また国税通則法第六五条第二項所定の正当な理由のあることについて主張、立証はなく、同条第一項に従つた算出結果が被告の主張3のとおりであることは当事者間に争いがないから、本件賦課処分も適法である。
第七結論
以上のとおり本件処分は適法であるからその取消を求める原告の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 原健三郎 木原幹郎 佐藤公美)
別表(一)ないし(一二) <略>
別表一ないし七 <略>
処分目録
所得金額(円)
法人税額(円)
過少申告加算税額(円)
(一)
一一三万七三六四
三〇万五二〇〇
五九〇〇
(二)
七一万二八六一
一八万六四八〇
(三)
一五五万八二五七
四二万三一〇〇
一万一八〇〇
物件目録
(一) 鶴岡市日吉町一一番地一五所在
家屋番号 一一番一五
鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗
床面積(登記簿面積)
一階五四七・九三平方メートル(一六五・七五坪)
二階五七〇・二一平方メートル(一七二・四九坪)
(実測面積)
一階五七八・五一平方メートル(一七五坪)
二階五七八・五一平方メートル(一七五坪)
(店舗)
(二) 鶴岡市日吉町一一番地四四号、四三号所在
家屋番号 日吉町一一番四四号
軽量鉄骨造亜鉛メツキ銅板葺二階建倉庫
床面積(登記簿面積)
一階二六一・八八平方メートル(七九・二二坪)
二階一八四・八九平方メートル(五五・九三坪)
(実測面積)
一階二七七・六八平方メートル(八四坪)
二階一九五・〇四平方メートル(五九坪)
(一号倉庫)
(三) 鶴岡市宝町九番地六九号所在
家屋番号 宝町九番地六九号
木造亜鉛メツキ銅板葺平家建倉庫
床面積(登記簿面積)
一三二・四九平方メートル(四〇坪)
(二号倉庫)
(四) 鶴岡市宝町八番地四二号所在
家屋番号 八番四二号
木造亜鉛メツキ銅板葺平家建物置
床面積(登記簿面積)
八五・六八平方メートル
(三号倉庫)
(五) 同所八番地四三号所在
家屋番号 八番四一号
木造亜鉛メツキ銅板葺二階建車庫
床面積(登記簿面積)
一階一一六・七〇平方メートル
二階 七七・四二平方メートル
(車庫)
(四)と(五)の実測合計面積
一階二〇一・三〇平方メートル(六一坪)
二階 六四・三五平方メートル(一九・五坪)
(六) 鶴岡市大字新形字相見三九、四四、四五所在
宅地 五一〇坪
(材料置場) 以上